財産を大切な家族に受け継ぐ方法として、「遺言」を思い浮かべる方も多いと思います。
(遺言についての詳しい内容は、こちらの記事「あなたの思いをつなぐ遺言書とは~相続で揉めないための遺言指南~」をご覧ください。)
しかし、財産を承継する方法は遺言だけではありません。
近年の高齢化社会による認知症の増加や、親族間で相続をめぐり争ってしまう「争族(そうぞく)」問題などに対応すべく、注目されているのが「家族信託」という方法です。
この記事では、
・遺言と家族信託の比較
・遺言と家族信託を組み合わせると効果的である3つの理由
について解説していきます。
「まだまだ我が家は相続対策なんてしなくても大丈夫」
と思っていても、心のどこかで少し気になっている方も多いのではないでしょうか。
漠然とした不安を少しでも解決できるよう、わかりやすくまとめました。
ぜひ、最後までご覧ください。
目次
1.遺言と家族信託の違い
(1)遺言とは
遺言とは、「自分の死後、財産を誰にどのような割合で承継させるかを書き記した書面」のことです。
今回は説明を省略いたしますので、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(2)家族信託とは
家族信託とは、「認知症の発症など、自分で自分の財産を管理できなくなってしまう状況に備えて、親族に自分の財産を生前から管理する権限を与える方法」のことを指します。
文章にするとややこしいですが、図にすると下記のようになります。

図では、父が委託者(財産などの管理権限を預ける人)であり受益者(財産によって発生する利益を受け取る人)です。
そして、財産管理を委託された子(長女)が「受託者」です。
委託者と受益者が同一であれば、実質的な権利関係が大きく変わるわけではありません。
シンプルな言葉に置き換えると、「ご自身で財産などの管理ができない、または大変になってしまった時のために、代わりに管理してくれる人(受託者)を事前に指定しておく」というのが家族信託です。
また、認知症等になると法律行為が制限されてしまいます。
たとえば、賃貸物件を所有していて認知症を発症してしまった場合、新しい入居者が現れても、不動産会社や借主から「本人(所有者)の意思確認をさせて下さい。」と求められたときに対応できないリスクがあります。
2.遺言の作成方法、手順
(1)遺言の作成方法
遺言の作成方法は、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」という遺言方式によりそれぞれ異なります。
詳しくはこちらの記事にてご確認ください。
(2)家族信託の手順
家族信託は遺言よりもやや難易度の高い手続きです。しかし、専門家の力を借りることによって実現できます。
今回は、家族信託とはどういうものかを理解するために、大まかな流れを解説します。
細かい部分は省略しており、下記の内容がすべてではございませんがご参考にしてください。
①親族で話し合い、家族信託の目的を明確にする
家族信託をおこなう前に必ず家族で話し合いをしましょう。
目的があいまいなままでは、契約内容に不備や誤りが生じる可能性があります。
そのような場合、家族信託が機能不全となります。
また、家族会議をすることで、親族間の同意が図れるという側面もあります。
家族信託の知識がある専門家を交えて話し合い、第三者の視点からアドバイスを得ることが大切です。
②信託契約の内容を決める
信託契約は、個々のケースによって変化するので内容に正解はありません。
家族信託の目的を達成するために必要だと考えられることは、契約内容に明記しましょう。
下記の項目が契約内容に含めるものの一例です。
委託者、受益者、受託者、信託の目的、信託財産の内容、信託財産の管理方法、信託終了の事由 残余財産の帰属先など
③信託契約書の作成
家族信託について、「信託契約書」を作成して書面にします。
書面の作成も、やはり誤解や間違いを防ぐために、専門家と作成することが望ましいでしょう。
④信託契約書を公正証書にする
信託契約書は必ずしも公正証書で作成する必要はなく、私文書でも作成することはできます。
しかしながら、信託契約書を公正証書で作成することには大きなメリットがあります。
【メリット】
・契約書の紛失を防止できる(紛失しても再発行することができる)
・本人の意思を公証人が確認するので、後で紛争になりにくくなる
・契約後、金融機関で信託口口座を作成するときなどに手続きがスムーズになる
など
⑤不動産の登記を名義変更する
不動産を信託財産とする場合は、不動産登記の名義変更が必要になります。(登記申請)
費用はかかりますが、手続きの労力や間違いを防止する観点から、司法書士などの専門家に依頼するのが望ましいでしょう。
⑥お金を管理する「家族信託専用口座」を作成し、送金する
家族信託は、受託者が元から持っている財産と委託者の財産(信託財産)を明確に分けて管理する必要があります。
そのため、一般的には信託専用口座(信託口口座)を作成します。
信託口口座(しんたくぐちこうざ)を作成することは、やはり未だにハードルが高いようです。
メガバンクはNGなど対応できる金融機関が限られています。そのため、専門家への相談が必要です。
金融機関で事前に信託契約書案の法的審査を受け、了解を得ることができれば、受託者が信託口口座を作成します。
金融機関に提出するため、信託契約書は法的根拠のある公正証書であれば比較的手続きがスムーズになります。
信託口口座まで用意できれば、信託財産を委託者の名前で送金します。
そして、家族信託の運用が始まります。
いかがでしょうか。まずは家族信託の流れについてご理解いただければ幸いです。
3.遺言と家族信託を組み合わせるメリット
相続対策は、遺言か家族信託のどちらか一方でカバーできてしまうのでしょうか。
実は、遺言と家族信託を組み合わせることにより、もっと具体的な相続対策ができるのです。
組み合わせることのメリットを3つ、ご紹介します。
(1)家族信託でカバーできない財産がある場合、遺言で対策できる
家族信託では信託の対象とする財産(信託財産)を決めて契約を結ぶケースがほとんどです。
しかし、簡単に信託財産とすることができない財産があります。代表的なものが「農地」です。
農地は、農地法という法律で規制されており、信託財産に含める場合には、農業委員会の許可等の手続きを経る必要があります。
農地所有者(委託者)の判断力が低下した場合に備え、受託者に農地に関する届け出の権限を委任する信託契約を結ぶことは効果的でしょう。
しかし、委託者の生前に農業委員会への許可等を得なければ、信託契約の効力は発生しません。
農地の承継先をせっかく家族信託で指定しておいても、相続が発生してしまうと効力は発揮されず、遺産分割協議の対象になってしまうのです。
そのため、所有財産に農地がある場合は、家族信託と遺言を併用することをおすすめします。
(2)遺言にしか対応できないことがある
家族信託では、委託者の生前から財産を管理するこができます。
しかし、委託者が亡くなったあと、身分行為と呼ばれるものについては対応できません。
身分行為とは、法律上の身分関係に関する法律効果を発生、変更または消滅させる法律行為をさします。
例えば、「成年後見人の指定」や「子の認知」などです。
これらを行いたい場合は、別途遺言を作成することが望ましいでしょう。
(3)二次相続にも対応できる
家族信託は、両親の死亡または子の死亡により終了する、「死亡終了型」が一般的です。
契約内容によって子や孫の代まで継続させていくことができます。
一方、遺言だけでは、子の死亡時まで対応することができません。
例えば、障がいを持つ子を持つ両親が亡くなった場合などに、親なきあと問題にも対応可能となります。
また、下記のようなケースにも対応できます。
会社経営者Aさん
「将来的には、長男に事業を承継していきたい。
しかし、まずは自分の死後に配偶者が困ることがないようにしたい。」
↓
一旦は配偶者を受益者とし、配偶者の死後に長男を受益者とする家族信託を作成する。
このように、家族信託は様々な事情を考慮した二次相続にも有効です。
4.まとめ
遺言と家族信託について、少しでも身近に感じていただけましたでしょうか?
「遺言にするのか、家族信託にするのか」という限定的な考え方にとらわれず、財産を残す側と残される家族側の思いを共有し、両者が納得できる相続対策について話し合うことがとても大切です。
「話合うタイミングが難しい、なかなか親族の意見がまとまらない」とおっしゃる方も多いと思います。
弊社では、相続や家族信託についてもご相談いただけます。
専門家と連携し、急がせるようなことはせず、じっくりとお力添えさせていただきます。
お気軽にご連絡ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。