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相続した不動産、どうする?~空き家と所有者不明土地が抱える問題とは~

相続した不動産、どうする?~空き家と所有者不明土地が抱える問題とは~

相続について、漠然と不安を感じていらっしゃる方は多いと思いことでしょう。そして、相続の当事者となる時は突然訪れることもあります。親が残した財産を相続する場合、「家」や「土地」を受け継いでも、どうしたらいいのかわからないというケースも少なくありません。

このコラムをご覧の皆様は、不動産を相続したら、放置せずに何らかの活用をした方が良いということはイメージできると思います。相続した空き家を長年放置していると、害獣被害や不法投棄の場所に使われてしまうなどの様々な問題の原因にもなりえます。大切な家族が遺した不動産が、“負の遺産”になってしまうことになりかねないのです。

また、「特定空き家」として指定されてしまうと、固定資産税が6倍まで跳ね上がります。金銭的な負担を少なくする意味でも、相続した家は空き家のまま放置しないことが大切です。


※特定空き家とは
2015年5月26日に施行された「空家等対策特別措置法」では、『特定空家等とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう』とされています。
(法令上の表記と揃えて、上記説明では空き家を「空家」と表記しています。)


放置してはいけないとはわかりつつも、「相続した不動産をどうすれば良いかわからない」という方もいらっしゃいますよね。不動産を有効に活用していくにはまず、放置した場合のリスクや問題点をしっかり理解することが大切です。今回は前編として、今の日本が抱える空き家や所有者不明の土地などの現状を解説します。後編では、不動産を有効に活用する方法を詳しくお伝えします。
(後編の配信は4月以降を予定しております。)

どうぞ最後までご覧ください。


1.”空き家”が増え続ける日本

(1)今や、7戸に1戸が”空き家”である

現在、日本では「空き家」が年々増加し、問題化しています。空き家とは、「誰も人が住んでいない家」のことです。問題の現状は、総務省統計局が発表している「住宅・土地統計調査」を見ると明らかになります。この調査は5年ごとに発表され、日本の住宅とそこに居住する世帯の居住状況、世帯の保有する土地等の実態を把握し、その現状と推移を明らかにしています。

本コラム執筆時において最新版となる、「平成30年(2018年)住宅・統計調査」(総務省)の「空き家数と空き家率の推移」を示したグラフを見てみましょう。

出所:「平成30年(2018年)住宅・土地統計調査」(総務省)
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/tyousake.html

1988年では394万戸に対し、2018年実績の「空き家数」は849万戸となっています。この30年間で倍以上に増えていることが分かりますね。空き家数を総住宅数で割った「空き家率」は13.6%で、今や「7戸に1戸が空き家」となっている現状です。

(2)地方においては活用できない物件も多い

空き家を種類別に見たときに、最も問題化しているのは、売却用にも賃貸用にも使えない「その他の住宅」です。「その他の住宅」が増えてしまった原因は、所有者の高齢化にも原因があります。なぜ所有者が高齢だと空き家になりやすいのでしょうか?その理由は、所有者が介護施設等に入居して住まなくなってしまった、実家の不動産を相続したときにはもう高齢で、わざわざ実家に移り住みたくない、などの理由が考えられます。

放置されている空き家の問題と、社会の高齢化には密接な関係があると言えるのです。

特に、人口の流出が進む地方では、空き家率の増加が顕著です。下記の表では、空き家率の高さ1位が山梨県、2位が和歌山県、3位が長野県となっており、特に甲信越や四国において多くなっています。

理由として、地方では人口減少や交通インフラの不便さから、不動産取引件数自体が元から少ないということがあげられます。家や土地が売れづらい地域の中で、空き家として放置されている物件は修繕や建て替えに費用がかさむため、さらに売れづらくなっています。なかには、空き家を専門に扱う不動産会社もありますが、一般的な不動産会社は価格が低くなりやすい空き家の売買に積極的ではない傾向にあります。

出所:「平成30年(2018年)住宅・土地統計調査」(総務省)


2.所有者不明土地が抱える問題と解決への取り組み

(1)”所有者不明土地”は九州の面積を上回る

空き家ばかりではなく、「所有者不明土地」も近年浮かび上がってきた課題です。

 

※「所有者不明土地」とは
①不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地
②所有者が判明しても、その所在が不明で連絡がつかない土地
(法務局民事局 HPより抜粋)


不動産を相続した際の相続登記は、2022年3月の現時点では義務ではありません。申請しなくても、特に不利益になることはないのです。

また、高齢化や過疎化により土地の所有意識が薄れ、土地を利用したいというニーズも低下したことなどを背景に、所有者不明の土地は年々増えています。不動産登記簿で所有者を確認できない土地は、2016年時点で約410万ヘクタールを上回っています。これは九州本島の面積約368万ヘクタールを超える面積です。2040年には、約720万ヘクタールまで増加し、北海道の面積にも近づくと言われておりますから、驚きを隠せませんよね。

所有者不明土地は、公共事業を行うときに非常に大きな問題となります。所有者を特定するのに多大な時間と労力が生じてしまうからです。2011年に発生した東日本大震災の後も、復旧・復興事業が円滑に進まない原因の一つが「所有者不明土地」の存在でした。

復旧・復興事業が進まないと、被災した人々の生活にも大きな影響が生じます。もろくなった地盤の崩れや余震での二次災害を防ぐためには、早急に補強・補修工事をおこなう必要があります。所有者不明土地の解決は、安全確保の面からみても喫緊の課題であることは明らかです。地震や天候での災害が多い日本では、所有者不明土地の問題は決して他人事ではありません。

所有者不明土地となる原因の大きなものは、土地の登記名義人が転居しても、「住所変更登記」を行わないことが挙げられています。具体的には、所有者不明土地の約34%が住所変更登記の未了により発生したものとされ、さらに都市部ではこの割合がさらに高くなると言われています。

では、なぜ住所変更登記が行われないのでしょうか?その原因としては、①住所変更登記は義務ではなく、変更登記をしなくても大きな不利益がないこと及び②転居等の度に住所変更登記を行うことが負担であることが挙げられています。

ただ、上記のとおり、住所変更登記が行われないことにより、多くの所有者不明土地が発生し、様々な問題を引き起こす事態になってしまったことを受け、2021年(令和3年)の不動産登記法改正により、住所変更登記が義務化されることになりました。新しいルールの適用開始時期(施行時期)は、公布(2021年4月28日)から5年以内とされているため、2026年(令和8年)4月頃に施行されることが予想されます。 「なんだ、まだ先の話じゃないか。」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、このルールは施行前に行った住所変更にも適用があるため、注意が必要です!

住所変更登記の義務化の具体的な内容を見ていきましょう。まず改正法では、所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内に、その変更登記の申請をすることを義務付けることとされました。そして、「正当な理由」がないのに申請を怠った場合には、5万円以下の過料に処することとされました。なお、この「正当な理由」については、通達等で明確化することが予定されています。また、過料を科す具体的な手続についても省令等に明確に規定する予定とされています。

以上について、改正法の条文を掲載いたします。ご参考になさってください。

【参考】改正後の不動産登記法
(所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請)
第七十六条の五 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。

(過料)
第百六十四条 (中略)
2 第七十六条の五の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、五万円以下の過料に処する。


(2)ランドバンクの取り組みとは

(1)で取り上げた現状から、国としても「土地を有効利用すべきだ」という動きが活発になりました。所有者不明土地の多くは相続に起因することから、2021年4月には関連法の改正で、相続発生後3年以内の相続登記などが義務化されました。

さらに2022年には、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」を改正し、使われていない土地とそれを使いたい人をマッチングする「ランドバンク」制度を導入する方針です。

※ランドバンクとは
ランドバンクは、管理不全で空き地になっている土地を、所有者に提案して登録してもらったり、草木の伐採や建物の除去など適切に管理した上で、希望者に情報提供したりするなど取引をマッチングする役割を担う組織。主に自治体や地域の自治会、宅建業者、行政書士や司法書士などで構成されます。


既に山形県鶴岡市や兵庫県尼崎市などで先進的な取り組みが行われています。国土交通省は、ランドバンクの位置付けを法的に明確にし、自治体の指定を受けたランドバンクが税制優遇を受けられるよう国会に働きかけています。 具体的には、ランドバンクが土地所有者から一時的に購入する土地や建物にかかる不動産取得税を5分の4に軽減し、活用希望者がランドバンクから土地を購入する際、所有権の移転登記に伴い希望者が支払う登録免許税を半額に引き下げることを、いずれも2024年度までの期限付きの措置として求めました。
今後の動向に、注目する必要があるでしょう。


3.まとめ

現在の日本が抱える空き家と所有者不明土地の問題について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。ご家族で都市部に住んでいる方は、「私には関係がない」と思うかもしれません。しかし、この問題は決して他人事ではありません。地方で空き家や所有者不明土地が増えれば、都市部へ人口が流出することになります。都市部へ人口が集中すれば、都市における過密化や自然災害リスクの増加、交通混雑など複合的な問題の原因にもなります。また、郊外におきては、人口流出による地域経済・産業の低迷やコミュニティ維持の困難なども引き起こし、ゆかりのある市町村が消滅することもありえるのです。「空き家や所有者不明土地の問題は、生活や防災の問題につながっている」ということがお伝えできていれば幸いです。

可能な限り、土地や建物などの不動産は有効的に活用することを考える必要があります。次回は、相続した建物や土地を有効活用しようと思った場合、どのような方法があるのかについて考えていきたいと思います。

不動産の形は一つとして同じものがありません。
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