前回のコラムでは、「相続した不動産、どうする?~空き家と所有者不明土地が抱える問題とは~」と題して、現在の日本が抱えている空き家の増加と所有者不明土地の問題について解説しました。
前回のコラムを読んでいただければ、空き家問題と所有者が分からず放置状態になっている土地のリスクをご理解いただけるかと思います。
では、空き家や放置状態の不動産を所有している場合や、将来的に誰も住まなくなる可能性がある不動産を所有している場合はどうしたら良いのでしょうか。今回のコラムでは、「相続した不動産、どうする?」というテーマの後編として、不動産の有効活用について多角的に解説します。
最後までお読みいただければ、ご自身や親族が所有している不動産を「負の遺産」にしないためのヒントが得られるかもしれません。
ぜひ、ご覧ください。
目次
1.相続した「建物」の有効活用の一例
(1)そのままの状態で賃貸に出す
空き家になってしまった場合、そのままの状態で賃貸に出すことが考えられます。この方法は、もっとも手っ取り早く、かつ手軽に取り組める活用方法です。
リフォームや建て替えなどをしないので費用もかからず、融資を組むこともありません。例えば、都市部の人気の高いエリアにマンションなどを所有している場合、そのままの状態でも十分賃貸に出すことは可能です。
また、入居者がいる状態でアパートやマンションを相続した場合は、そのまま貸し続けることで、安定した収入が得られます。もし、空室があったり、管理会社の管理状態に不満を感じるような場合には、思いきって管理会社を変更して入居者募集からお願いするといった対応を検討することも一案です。
(2)リフォーム、リノベーションして賃貸に出す
壁紙やフローリングが傷んでいるなど、そのままの状態では貸せない状況の場合には物件をリフォームして賃貸に出す方法があります。少し修繕すれば人が住める状態であれば、必要な部分をリフォームすることで、十分活用ができます。
リフォームやリノベーションをする際の注意点として、どこまで手を入れるかが重要となってきます。不必要に大規模にリフォームをして費用をかけても、物件の価値が大して上がらなければ費用倒れになってしまいます。
また、社会の変化や時代のニーズに沿う付帯設備を設置することも重要です。コロナ禍の昨今では、家で過ごす方や、在宅勤務を行う方が多いと言われています。実際に、筆者も2021年に新築されたマンションの1室に、作り付けの書斎スペースがあるのを見たことがあります。仕事部屋を確保することは難しいですが、独立性の高い作業スペースを付けることで入居者のニーズに合致し、収益性を高めることができます。
リフォームによって物件の付加価値がどのくらい上がり、どの程度の賃料を得る見込みがあるのか、不動産の専門家と共に具体的にシミュレーションしてみることをお勧めいたします。信頼できる不動産会社であれば、良いリフォーム会社を紹介するなど親身に対応してくれるはずです。
次の項目からは、「土地」だけを相続した場合に、どのような有効活用の方法があるか見ていきたいと思います。
2.相続した「土地」の有効活用の一例
(1)新たに建物を建築する(アパート、マンション等)

代表的なものとしては、相続した土地に、新しくアパートやマンション等を建築し賃貸経営する活用方法があります。
この方法は、もっとも収益性の高い方法と言われています。なぜなら、アパートやマンションを建築する場合、複数の部屋を作るので、複数の入居者が得られます。部屋が全部埋まれば1戸あたりの家賃は安くても、相当な収益になるためです。一度入居したら1年~2年は居住することが一般的ですし、賃借人が気に入ってくれれば、何度も契約を更新して住み続けてくれるでしょう。入居者がしっかりと確保できているアパートやマンションは将来の年金代わりにもなりますし、資産価値も高いといったメリットがあります。
ただし、メリットばかりではありません。大きさや構造によっては建築費用が高額になるので、多くのケースではアパートローンの利用が必要です。ローンを利用する場合、特に「キャッシュフロー」に注意しましょう。キャッシュフローとは、賃料収入からローン返済金、管理費用、修繕費用、税金などの経費をすべて差し引いた「手取り」の収入のことです。このキャッシュフローがマイナスにならないよう、収支計算をおこなうなど、事前の計画をしっかり立てることが大切です。
その他に注意したいのが「空室リスク」です。高額なローンを組んでマンションやアパートを建築してみたけれど、人気がなく入居者が集まらないため、賃料を下げざるを得なくなり、キャッシュフローが悪化していくケースも多く見られます。土地上にアパートやマンションを建築する場合には、特に慎重になる必要があります。アパートとマンションどちらを選択すべきどうかについても、立地や、周辺の競合物件の状況、ご自身の資産状況に応じて、事業規模を見極めることが肝心です。具体的にどのくらいの収益が上がり、どのくらいの経費がかかるのか、事前にキャッシュフローのシミュレーションを行っておくことが大変重要になります。このシミュレーションには不動産や金融の専門知識が必要になりますので、FP(ファイナンシャルプランナー)の知識を持った不動産の専門家などに相談することが賢明です。
アパート・マンションの建築会社によっては、「無理に契約を迫る」、「契約者にとって不利益な点を告知しない」、「見通しの甘い収支シミュレーションを提示する」、「1棟借り上げするから、リスクがないなどと説明する」等といったことにより、最悪の場合、裁判沙汰になるケースもあります。現在は、法改正などにより悪質な営業は排除される傾向にありますが、1棟販売するだけでも高額な利益を得られるため次から次へと新たな会社が生まれています。会社の良し悪しを判断することが難しいのが現状です。
当社は建築会社や、ディベロッパーではありませんので、自社の利益に捉われず、公平な目線でご提案をすることが可能です。また、FPや不動産コンサルティングマスターといった、お金や不動産に関しての専門資格を持つ者も在籍していますので、キャッシュフローのシミュレーションなどをご希望の際は、ぜひお気軽にお問合せください。
(2)建物以外の活用方法
1.駐車場(月極駐車場、コインパーキング)

2つ目の土地活用の方法が、駐車場です。駐車場にすることで、毎月定額の賃貸収入を得ることができます。居住用のような建物を建築するわけではありませんので、比較的少ない初期費用で始めることができます。また、将来土地を別の目的で利用したくなったとき、駐車場には借地借家法の適用がないので、柔軟に対応しやすい点がメリットとなります。
※借地借家法とは
ここでは、詳細な説明については割愛しますが、借地借家法は土地や建物の賃借人(借地人、借家人)を保護する傾向が強い法律のため、もしその土地や建物の賃貸借契約に借地借家法が適用されると、契約書に貸主が契約期間の途中で賃貸借契約を解約できるとの条項があっても、自由に解約ができるわけではなく、貸主側に解約をするための「正当事由」が必要となってしまいます。この「正当事由」は、裁判上でもなかなか認められないため、借主にそれなりの「立退料」を支払わなければならない等の問題が発生する可能性があります。また、期限により必ず退去する旨を定めた定期借家権もあります。
駐車場の場合、まずは月極駐車場とコインパーキングの2種類から選ぶ必要があります。月極駐車場なら比較的個人でも管理しやすいですが、コインパーキングにするときには、設備(精算機やロック板など)の準備や管理が必要になるので、駐車場運営会社に「一括借り上げ(サブリース)」で土地を貸して経営する方法が一般的です。一括借り上げの場合、基本的に初期費用やランニングコストが不要(※)であり、リスクを抑えて有効に活用することができます。(※土地の整備費や税金は除く)
月極駐車場の場合には、自分で管理する選択肢も選べます。その場合、労力はかかりますが、管理会社への管理委託料・手数料などの支払いがないため、収益性が高くなることがメリットです。
どちらにおいても、成功させるためには立地条件の検討が不可欠になります。周辺に商業施設があればコインパーキング、住宅街であれば月極駐車場など、周辺状況や需要を見極めましょう。所有している土地が現在のお住まいの近くではない場合でもなるべく現地に出向き、平日と休日、昼間と夜間の状況などをご自身で確認されることをおすすめします。
2.太陽光発電
相続した土地が郊外の広い土地の場合には、ソーラーパネルを置いて、太陽光発電を行い、売電などによって長期的な収益を得ることができます。日当たりが良い土地に適した土地活用方法となります。初期投資に多額の費用がかかることや、定期的なメンテナンスが必要になるので置きっぱなしにはできない点などにご注意ください。
3.資材置き場
土地をそのまま活用する方法としては、資材置き場として利用することも可能です。資材置き場とは、マンションなどの建築工事に用いる資材などの置き場所のことです。資材置き場は市街化調整区域という、ざっくり言えば「市街化を抑制するために、お店や住宅などを積極的に建ててはいけないエリア」にある土地の場合に有効な検討案となります。交通の利便性の高い高速道路の近くや、建築工事が行われる市街化区域に近い立地であれば、「常設」の資材置き場として建築会社と契約し、資材置き場として利用してもらい、賃料を得られる可能性があります。コインパーキングや月極駐車場としての需要がない場所では有効な活用方法であり、何の準備も要らず、そのまま土地を貸すことができます。
4.第三者に貸す
土地を所有し続けるなら、「借地権」を設定し、地代収入を得る方法もあります。
借地権とは、建物を所有することを目的に、土地を借りる権利のことを言います。これにより借主は借地上に自己の建物を建築し、利用します。居住用に利用することもありますし、事業用に利用することもあります。また、賃貸用マンションなどを建設し、さらにそれを人に貸して賃料収入を得るケースもあります。借主とトラブルにならないよう事前に、どんな用途で、どれくらいの大きさの建物を建てるなど、契約時に検討する必要があります。
なお、借地権にも種類がありますので、詳しくはまたの機会を設けたいと思いますが、普通借地権と定期借地権の違い、期間や構造など考慮するべき点が多数あります。
・普通借地権の場合
⇒契約期間は当初30年以上となり、期間が終了しても「正当事由」がない場合、
借地人の希望で契約は更新されます。
契約終了時に建物が残存する場合、地主に対し建物の買い取りを請求できます。
・定期借地権の場合
⇒あらかじめ借地契約の期間を定めておき、期間終了時に当然に契約が終了します。
定期借地権には、一般の定期借地権、建物譲渡特約付き定期借地権、事業用定期借地権があります。
長くなりますので本コラムでは割愛させて頂きますが、契約期間の設定などそれぞれ異なりますのでご注意ください。
3.処分、売却する
色々と検討してみても、どうしても活用することが難しい場合には、処分や売却することも1つの候補となります。特に、人気の高い住宅地のエリアなどでは、戸建て建築などのために土地を探している人も多いので、買い手探しには困らないでしょう。その際は、ぜひ当社までご連絡を頂ければ、ご依頼者様に代わって買い手をお探しいたします。
4.まとめ
所有する不動産を空き地や空き家のまま放置していると、固定資産税が上乗せされる、治安が悪化するなどデメリットしかありません。すぐに売却を検討するだけではなく、今回ご紹介させて頂いた方法もご参考にしてみてください。さまざまな有効活用方法を知っていただき、柔軟に選択していただければ幸いです。
次回以降のコラムでは、さらに掘り下げて、不動産の有効活用方法を解説します。
専門性の高い不動産会社が増え、消費者の方にも安心して不動産取引をおこなっていただける不動産市場へと変化している昨今です。活用手段全般において、まずはしっかりとした事業計画を検討する必要がありますが、当社は「相続と不動産の専門家」として、専門的な知識と経験を有する体制を整えております。相続された不動産の立地、面積、築年数などから、ご意向をお聞きした上で、幅広い選択肢をご提案させて頂きます。ぜひ当社も選択肢のひとつとして、まずはお気軽にご相談をいただければと思います。