マンション、戸建て、土地などの固定資産を所有していれば、必ず支払い義務の生じる固定資産税。1年間所有している場合は、1年分を所有者が支払うことになります。しかし、どこかのタイミングで売却があった場合、売主と買主、どちらが固定資産税を支払わなければいけないのでしょうか。また、その場合はどのように精算すれば良いのでしょうか。今回はそちらの内容について、相続と不動産の専門家が解説いたします。
10分程度で読める文量にまとめておりますので、どうぞ肩の力を抜いてご覧ください。
1.固定資産税とは
固定資産税とは、毎年1月1日のタイミングで、個人や法人が所有している不動産のような固定資産に対して市町村が課税する地方税の一種です。固定資産にあたる不動産は、土地、家屋で、これらは全て固定資産税の対象となります。
固定資産税は「固定資産税評価額」を元に算出することができます。更新された評価額については、4月1日に市町村より開示されます。固定資産税評価額が高いと資産価値が高いと判断されるため、固定資産税を多く支払う必要がでてきます。なお、不動産の価格は様々な経済的要因などの影響を受けて変動しますので、固定資産税評価額は3年に1度見直されます。この見直しを、「評価替え」と言います。
固定資産税評価額が決定したら、あとは下記の計算式に当てはめます。
「固定資産税=固定資産税評価額×1.4%」
マンションや戸建ての土地以外の部分に関しては、耐用年数が考慮されるため、年々支払う税金が安くなります。詳細な金額は、固定資産税の納税通知書で確認できますが、概算で出すなら土地の場合は時価の70%程度、家屋は新築取得時の50~60%程度となります。
また、固定資産税には軽減措置が適応できる場合もあります。本コラムでは詳細は割愛しますが、例えば、新築の場合は5年間の建物の固定資産税が1/2になる軽減措置があります。軽減措置により、支払う税金の額を下げることが可能な場合もあります。軽減措置を受けるためには、自ら申告が必要なケースもあるため、詳しく知りたい場合は市区町村の窓口などに確認することをおすすめいたします。
2.固定資産税は買主と売主どちらが払うのか
固定資産税は毎年1月1日に所有している方に対して支払い義務の生じる税金です。つまり、1月2日以降に譲渡した場合においても、税金としては1月1日現在の所有者が納税することとなり、不動産売買があった年の固定資産税は売主が全額支払うことになります。
しかし、それでは売主の方が不動産を所有していない期間分も固定資産税を納めることになってしまいますよね。そこで、1年間分の固定資産税を引渡し日を基準に売主と買主の両者で支払う方法で調整することが不動産業界では慣習となっています。
ただ、起算日の考え方は地域によって異なり、関東では1月1日、関西では4月1日を起算日にする傾向があります。あくまでも上記は慣例であり、確定的なものではありません。 起算日は売主との合意で決まるため、どちらで計算するのかは、あらかじめ確認しておく必要があります。
固定資産税は1月1日に所有している方の元に納付書が送付されるものの、支払いの対象月は4月から3月までの年度計算です。そのため、売主が所有していた期間分と買主が所有していた期間とで分割し、それぞれ必要な額を支払うことがあります。具体的には、起算日から「引き渡し」前日までの期間分は売主が、「引き渡し」当日から当該期間終了分までは買主が負担することになります。清算の基準となるのは引き渡し日で、不動産売買契約を結んだ日は関係ありませんので注意してください。
それでは、実際の具体例で確認してみましょう。
・按分の起算日→①1月1日 ②4月1日
・既に売主が支払っている固定資産税の合計額→30万円
・引き渡し日→11月1日
起算日 |
区分 |
算式 |
負担額 |
① 1月1日
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売主 買主 |
30万円×304日/365日 30万円×61日/365日 |
249,863円 50,137円 |
② 4月1日
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売主 買主 |
30万円×214日/365日 30万円×151日/365日 |
175,890円 124,110円 |
上記の場合、起算日から引き渡し日前日の7月31日までが売主の負担、引き渡し日当日の8月1日から当該期間終了までが買主の負担になります。また、按分の起算日によって買主と売主の清算金額が変わるため、注意してください。
税法上では、毎年1月1日時点の所有者に固定資産税の納税義務があります。言いかえると、年度の途中で所有者となった買主には納税義務は一切ありません。よって、買主が売主に支払った固定資産税相当額(清算金)は、税金の支払いではなく、売買代金とみなされます。
固定資産税の払い過ぎた分の返金と勘違いしがちですが、本来は売主が負担すべき金額を売買契約によって買主が負担するため、契約書にある不動産の売買代金に固定資産税清算金をプラスしたものが実質の売買代金となるわけです。
「固定資産税清算金」は税金ではなく売買代金の一部にあたりますので、当然「消費税」の課税対象となります。売主が課税業者の場合(ほとんどの不動産会社が該当)、土地と建物のうち、建物部分の固定資産税清算金には消費税が課税されます。(土地は課税対象外です。)ただし、取引相手が課税業者ではない場合は非課税となります。
それぞれの不動産取引契約の内容をよく調べ、消費税が課税されるのかを確認した上で、計算する必要があるでしょう。
不動産売却があった際の固定資産税を売主と買主の両者で日割り清算をおこなうのは、義務ではありません。つまり、法律上で定められている手続きではないのです。
例えば、「買主が固定資産税を全額負担する」という売買契約も両者が納得しておこなうのであれば可能ではあります。しかし、慣習的に売主と買主で固定資産税を日割り清算する場合であっても、必ず固定資産税の清算方法や取り決めについては一般的な不動産売買契約書には明記してあります。清算についての記載がない場合は、トラブルに発展するおそれがありますので、契約前に契約書へ明記することをお勧めいたします。
また、金額を定める際には、一年間の固定資産税額を基に日割り清算をおこなうので、納税通知書は大切に保管することが望ましいでしょう。(各行政の税務事務所で、公課証明書を取得することで確認することもできます。)
※都市計画税が課税されている地域の場合にも、固定資産税と同様の方法で引渡し日を基準に日割清算を行うことが一般的です。
3.まとめ
●固定資産税は毎年1月1日を起算日とするのが一般的だが、慣例により4月1日とすることも。起算日により按分額が変わるため、事前に確認が必要。
●起算日から「引き渡し」前日までの期間分は売主が、「引き渡し」当日から当該期間終了分までは買主が負担するのが一般的。契約日ではなく「引き渡し日」が基準となる。
●「固定資産税清算金」は税金ではなく売買代金の一部とみなされる。売主が「課税業者」の場合、「建物部分」の清算金については「消費税」の課税対象となる。
マンション、戸建て、土地などの固定資産を所有している限り納税の義務が生じる固定資産税は、毎年1月1日に所有していた方に対して納税義務が生じます。基本的に売主が負担しなくてはならない固定資産税ではあるものの、売買契約時に買主が所有している期間分の固定資産税の費用については買主が支払いに応じるケースがほとんどですので、正確な計算の元、売主と買主の両者が納得のいくように納税してください。
もし、算出方法などについて分からないことがありましたら、専門家である私たちまでご相談ください。