みなさんは、「借地権付き」と、住宅販売の図面などに書かれているのをご覧になったことはありますか?
所有権と借地権の物件、どんな違いがあるのでしょうか。
借地権とはそもそも、借地借家法で使われている用語です。建物の所有を目的とする地上権または土地賃借権を指し示しています。(借地借家法第2条1項)
つまり借地権とは、賃料(地代といいます)を払って地主から土地を借りる権利です。
「借地権の土地のほうが、所有権の土地よりも安いな」と感じられたことがある方も多いのではないでしょうか。
なぜ、借地権付きの土地には割安感があるのか、理由まで明確に答えられる方は多くはないと思います。
今回のコラムは、借地権を計3回にわたって詳しく紐解きます。
1回目である今回は、「借地権とは?」と「借地権の種類」を解説します。ぜひ最後までご覧ください。
1.借地権とは
(1)借地権とは
「借地権」とは、建物を所有することを目的とする土地の賃借権と地上権を指します。借地権を設定するためには、土地の賃貸借契約を締結する場合と地上権設定契約を締結する場合があります(借地借家法 第一章 総則 第二条)
土地の所有者(地主)に賃借料(借地権の世界では、地代といいます。このコラムでは、地代で統一します。)を支払うことで、土地を一定期間借りることができます。
ちなみに、土地を借りている人を借地権者、土地を貸している人を借地権設定者(地主)や底地人(そこちにん)と表現します。
(2)旧法・新法のちがい
借地権は大きく分けて2種類あり、借地法(旧法・大正10年施行)と借地借家法(平成4年 施行)が存在します。旧法は借地人の権利が強く、土地の返還がむずかしいなど地主側に不利な面がありました。「地主は一度土地を貸したら返ってこない」とも言われるほどでした。新しい借地借家法では、「普通借地権」、「定期借地権」、「事業用定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」「一時使用目的の借地権」と5種類に分類されました。
2.借地権の種類
(1)普通借地権
新法の普通借地権では、旧法の借地権に存在していた「堅固、非堅固(木造や鉄骨など)の建物の構造による契約期間の区別」がなくなりました。地主による一方的な契約解除は認められていません。(地主の正当な理由が必要です。)普通借地権の存続期間は、当事者が契約で30年以上の存続期間を定めた場合には、その期間とされています。逆に、特約がなければ、存続期間は30年となり30年より短い期間の定めは無効となります。また、普通借地権は契約を更新することができます。
借地人が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、借地契約は更新されます。これを法定更新といいます。借地人が更新請求をしなかった場合でも、期間が満了した後、建物があり借地人が土地の使用を継続しているときは、法定更新されます。
更新は1回目が20年、2回目以降が10年となりますが、地主と借地人間でこれよりも長い存続期間を定めることも可能です。逆に、短い存続期間の定めは無効とされますので注意しましょう。
普通借地権の存続期間が満了する前に建物が滅失した場合はどのようになるのでしょうか。借地権者が残存期間を超えて存続する建物を再建築し、その再建築について地主の承諾がある場合には、承諾の日、または再建築の日のいずれか早い日から20年間、借地権が存続することになります。
このように、普通借地権の場合には、当初の契約で定めた借地権の存続期間が満了しても必ずしも契約関係が終了しないという特徴があります。
なお、契約方式については、必ずしも契約を書面でする必要はありません。(このような契約を、法律用語で諾成契約といいます。)
ただし、トラブルを避けるためにも借地の契約には書面で行うことを強くお勧めします。
(2)定期借地権
定期借地権では、契約更新がなく、期間満了後に更地にして地主に返すことが義務付けられています。(後述しますが、建物譲渡特約付き定期借地権は除きます。)
これは、旧法であった土地の返還がなされないトラブルを改善するために改正されたものです。さらに、定期借地権にも種類があります。
①一般定期借地権
一般定期借地権とは、定期借地権のなかでも建物譲渡特約付借地権と事業用定期借地権以外の借地権で、建物の用途に制限はありません。マンションなどの居住用や店舗といった事業用など、建物をどう使用するかは制約がないことが特徴です。なお、一般定期借地権には最低期間が定められていて、「50年以上」でなければなりません。契約の更新がなく、期間が満了により契約を終了させることができる借地権です。また、建物買取請求権(※)は特約で排除することができます。
一般定期借地の契約は、50年以上の存続期間をもって、更新が無い特約、建物再建築による存続期間の延長が無い特約、建物買取請求権を排除する特約ができる借地契約で、その各特約は、公正証書による等、書面による必要があります。
※借地の建物買取請求権とは、 借地契約が更新しないで終了した場合に、借地権者(借主)が地主に対して、建物を買い取らせる権利のことです。借地権者が「建物買取請求権を行使します」と地主に口頭で伝えることで、建物の売買契約が成立します。借地権者は、売主として建物の引き渡す義務があり、地主は、買主として代金の支払う義務が発生します。建物買取請求権の行使ができるのは、借地権が期間満了で終了した時に限ります。それ以外の理由(地代の不払いなどの契約違反があった場合など)では、買取請求権は発生しません。借地契約を合意解除した場合も、建物買取請求権の行使はできません。
②事業用定期借地権
事業用定期借地権とは、居住用の建物を除く建物の所有を目的とする借地権です。一般定期借地権同様、契約更新がなく、期間満了後に更地にして地主に返す必要があります。法改正を経て、契約期間は10年以上50年未満に定められています。
一般定期借地権が更新しない旨など各特約を書面により契約する必要があることに対して、事業用定期借地権は、必ず公正証書により契約を設定する必要があります。
公正証書により存続期間が設定されますが、存続期間30年以上50年未満の長期型と、10年以上30年未満の短期型に分類することができます。
短期型では、法律において契約の更新、存続期間の延長、建物買取請求権が自動的に排除されます。
長期型では、一般定期借地権同様、上記特約をすることができます。
どちらのタイプも公正証書により事業用定期借地契約の内容を詳細に定めるのが通常ですが、長期型は特約の記載が無い場合、当然には適用されないため注意が必要です。
③建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権とは、設定から30年以上を経過した期間満了日に、借地権上の建物を地主が相当の対価を支払って譲渡することをあらかじめ約束する借地権を指します。つまり、契約期間は少なくとも30年以上ということになります。譲渡によって借地権は消滅することになります。
この特約は普通借地権、定期借地権どちらにも付することができますが、この特約付きの借地権契約は定期借地権の一種であると考えられます。
定期借地権との違いとして、書面、または公正証書によらなくても成立する、ということがありますが、現実的にはイレギュラーな借地契約である為、書面は必須でしょう。
借地権が消滅した時点において、建物を誰かに貸していた場合(建物の賃借人が存在する場合)は、どうなるのでしょう。
建物の譲渡により借地権が消滅した場合、借地権者又は建物の賃借人で建物の使用を継続しているものが請求をしたときは、法定の借家権が成立するとされています。
この場合、法定借家権の存続期間は、原則として期間の定めのない賃貸借となります。
よって地主が解約もしくは更新拒絶をするには、正当な理由が必要になり簡単には解約などができなくなります。また、法定借家権の賃料は、当事者の請求により裁判所が定めるものとされています。
建物譲渡特約付借地権契約は、借地の返還は確実であるものの、旧借地人の建物継続入居や、借家人がいる場合は、単に地主から大家になるだけであり、土地の自由な自己利用を実現することができない可能性が大きいため、設定には注意が必要です。
(3)一時使用目的
建物所有の土地賃貸借は,借地借家法上の『借地』となります。(借地借家法第2条1号)
しかし,土地の賃貸借契約の目的が工事を行う際に仮設事務所やプレハブ倉庫などを建てるためや物産展や選挙事務所として場を提供するなど、一時使用目的の借地権であると認められる場合には、上記の借地権者の保護規定を適用しないこととされています(借地借家法第25条)
借地借家法第25条(一時使用目的の借地権)
第三条から第八条まで、第十三条、第十七条、第十八条及び第二十二条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。
一時使用目的の借地権であれば、存続期間や契約更新などの制限は特に定められないものとなります。
しかし、当初は「業務用倉庫」として一時使用目的で借主と賃貸借契約を結んだはずが、いつの間にか事務所として丈夫なプレハブが建築されていたということが起きる可能性もあります。
一時使用目的の借地権となる要件は、「臨時設備の設置、その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合」と規定されています。
当事者同士で土地の利用目的を明確にすることが肝心ですが、契約書に一時使用である旨が明記されていても、実態が伴わない場合(丈夫な建物が建っている、賃貸借期間が長期間にわたる等)は一時使用目的の借地権と認められない場合もあります。
更新についても自動更新とはせずに、「協議のうえ更新することができる」という項目を契約書に設けておくことなどでトラブルを防ぐことに繋がります。
この一時使用目的の借地権の設定も、経年により普通借地とみなされる可能性がある契約のため、将来リスクをよく考慮のうえ設定すべきでしょう。
3.まとめ
借地権の一般的な説明と種類について、できるだけ平易な言葉を用いて解説しました。
少しでも借地権を身近に感じていただければ幸いです。
もし、ご自身や親族が借地権付きの不動産を所有されている場合などでご不安なことがありましたら弊社までお気軽にご相談ください。